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名古屋高等裁判所 昭和58年(ウ)237号 判決

申立人(被申請人) 奥村栄三

右代理人弁護士 中田寿彦

被申立人(申請人) 岩田昌男

右代理人弁護士 草間豊

主文

名古屋地方裁判所が昭和五四年一月二九日同裁判所同年(ヨ)第七一号仮処分申請事件につきなした仮処分決定はこれを取り消す。

申立費用は被申立人の負担とする。

この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、申立人

主文第一項と同旨の判決並びに仮執行の宣言。

二、被申立人

本件申立を棄却するとの判決。

第二、当事者の主張

(申立人の申立理由)

一、被申立人から申立人を債務者として名古屋地方裁判所になされた別紙目録記載の不動産(以下「本件土地」という。)に対する仮処分申請事件(昭和五四年(ヨ)第七一号)に基づいて、同裁判所は同年一月二九日「申立人はその所有名義の本件土地に対し譲渡、質権、抵当権、賃借権の設定その他一切の処分をしてはならない。」旨の仮処分決定をした。

二、1. ところで、右仮処分決定は、昭和三九年四月二二日に申立人と被申立人との間に、申立人所有の本件土地と被申立人所有の名古屋市北区黒川本通一丁目六七番二宅地四六・二四平方メートルとを相互に交換する旨の契約が成立したので、被申立人は本件土地の所有権を取得したとの被申立人の主張を認容し、同所有権を被保全権利としてなされたものである。

2. しかしながら、被申立人が右仮処分事件の本案事件として、申立人を相手方とし、同年二月二二日名古屋地方裁判所に提起した本件土地の所有権確認請求等の訴訟(右交換契約による所有権取得を請求原因とする。)に対し、同裁判所は昭和五七年九月一七日被申立人敗訴の判決を言い渡した。

3. 被申立人は右判決に対し名古屋高等裁判所に控訴の申立てをなし、同事件は同裁判所に係属中であるが、証拠調べは全て終了し結審間際の状況にある。しかし、控訴審における被申立人の主張立証は所詮原審におけるそれの繰り返えしにすぎず、右判決が上級審で取り消されるおそれはない。

三、よって、本件仮処分決定は、その後に事情の変更が生じたものであるから、民訴法七五六条の準用する同法七四七条により取り消されるべきである。

(被申立人の答弁)

一、申立の理由一項は認める。

二、同二項のうち、1及び2は認め、3は被申立人が本案訴訟の敗訴判決に対し名古屋高等裁判所に控訴の申立てをなし、現に同裁判所に係属中であることは認めるが、その余は争う。

三、同三項は争う。

第三、証拠の関係〈省略〉

理由

一、申立の理由の一項、二項の1及び2の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二、しかして、本件仮処分決定後に仮処分債権者である被申立人が本案訴訟で受けた敗訴判決は、本件仮処分命令申請に際して疎明ありとされた被保全権利の存在の蓋然性を否定するものであるところ、右本案訴訟は被申立人の控訴により当審に係属中ではあるが(当事者間に争いがない)、右本案判決が上級審でたやすく取り消されることを予想しうる事情の存することについての疎明もないので、本件仮処分決定については、民訴法七五六条により準用される同法七四七条にいう「事情ノ変更シタルトキ」に該当するものと解するのが相当であるから、これを取り消すべきものである。

三、よって、申立人の本件申立は理由があるからこれを認容することとし、申立費用の負担につき民訴法八九条、仮執行の宣言につき同法七五六条ノ二をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷卓男 裁判官 寺本栄一 笹本淳子)

〈以下省略〉

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